Multiplex広告:記事は下部から

◎インヒアレント・ヴァイス 「ヒッピー探偵物語」85点◎

インヒアレント・ヴァイス
アメリカ2014年アメリカ映画アメリカ

内在する欠陥のある70年代のアメリカはアイスのようになくなってしまい、新たな時代がやってくるだろう。
その内在する欠陥とは、なんなんだろうか?知りたいのなら原作を読んでくれ。
ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ザ・マスター』に続く、2014年の作品。
ただどちらかと言えば、原作作品があり、原作も世界的に高い評価を得ている特質的な小説の映画化。
作者のトマス・ピンチョンはこれまで一切人前に出て来ない、顔を明かさない謎の人物で、とりあえず年齢は2015年は70代ぐらいらしい。
以前、彼の作品を少し読んだのだけども、これが非常に読みづらい。
いや真の本好きにはたまらないと思うのだが、端的に言うと、作品の根幹にある物語という骨組みがあるとしたら、話が全く進まず、速攻脱線して、いい気分になって、100ページぐらい読んで、ようやく話が少し進む。
そんな物語なのだ。
さすがに300ページぐらいで挫折してしまった。いやそんなに読んでないか。
そんな原作小説の映画化、というかそもそも全く映画化されてこなかったのは、作者自体が拒んできたからというのもあるらしい。
だが、ポール・トーマス・アンダーソンが撮るならOKというわけだ。
ちなみに監督は脚本も手がけている。
マリファナ中毒のヒッピー探偵物語
これ。これを忘れてはいけない。
確かにポール・トーマス・アンダーソン、めんどくさいからPTAの作品で、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ザ・マスター』のような凄まじい映画を期待したとしたら、それは悲しい結末をたどる。
これはむしろ娯楽作品だった。
肩の力を抜いて、見るべきで、70年代の絶望と高揚を感じながら、マリファナ中毒の主人公が、元カノの失踪事件から始まる、探偵としての依頼、刑事との因縁。
そういった複数の要素に絡まりながら、事件の真相に潜む、アメリカという根本的な闇と迷宮に触れつつも、その事件のヒントこそは自身の内部に存在するという、一級のノワール探偵物語なのだ。
政府、社会の腐敗汚職もちろん存在している。その中をマリファナを吸ってラリラリしながら、探偵として解決していく。
非常に楽しい作品だ。
PTAの作品が前作までは高解像度で、広角で、素晴らしいショットや静寂を効果的に使い、音楽も見事だったのに対して、本作は、物語を描くドラマ映画に仕上げており、画質も70年代を感じさせる粗めの映像だ。
またキャストは前作で、情緒不安定で暴力的なアル中だったホアキン・フェニックスが本作でも主役なのだが、全く真逆の人情家で、頼りないけど、頭がキレるが、マリファナとセックス大好きのヒッピー野郎。
恋人にはリース・ウィザースプーンが『ウォーク・ザ・ライン』以来の共演(笑)
宿敵とも言える刑事には、ジョシュ・ブローリン。これがめっちゃ面白い。
日本語でパンケーキパンケーキ言うし、暇があるとチョコバナナアイスばかり食べている。
ちょっとゲイか?と思えるが、単に好きなだけっぽい。
またキーマンとして登場するオーウェン・ウィルソン。意外なコラボだがはまり役。
ベニチオ・デル・トロも良い感じ。
と、とことん豪華な俳優陣で、最高だった。
またこの映画がよくわからないっていう人がいるけど、自分はそれが理解できない。
むしろわざと焦点を主人公の探偵要素のみに絞って、事件一つを解決させただけにしたとこが良かったと思う。
作品の抱えるアメリカの陰謀論に至っては、原作小説でかなり描かれているようだが、そのトマス・ピンチョン節を思えば、それを映画にしてしまうと確実に破綻するだろう。
テレビドラマとかなら可能だろうけど、この映画は普通に娯楽映画としてみれば、相当面白いし、雰囲気もあるし、笑えるし、スリリングだし、良い映画だった。
ただナレーション、というか頭の声をやっているキャラが主人公のもう一つの人格なのか?とか思うが、原作だと存在しているようで、そういう意味不明なアレンジが面白い。
ピンチョンのキャラクター造形をPTAが具現化する。
ピンチョンの右往左往するストーリーライン、ちょこちょこつまむアメリカの陰謀論、そこに踏み込まず、ヒッピー探偵の絶妙なバランス感覚で、自分が解決したいと思う事件を解決する情熱。
その絶妙なバランスに最後にちょこっと載せられる70年代の終焉。
アメリカが抱える欠陥はいつかアイスのように溶けてしまう70年代のヒッピー文化の終焉とアメリカンエキスプレスカードから始まる未来。
取り残されつ崩壊する現実、マリファナが見せる幻覚か、叶わなくヒッピーしてて最高に楽しかった幻影のように元カノと進む未来。
良い映画じゃないですか。
PTAは相も変わらずアメリカにメスを向ける。
メモ得点メモ
物語の面白さと上映時間 8/10
映画の奥深さと世界観とオリジナリティ 9/10
キャラクターの魅力 8/10
監督の映像演出と印象的なシーン、映像を使った話の描き方 8.5/10
音楽 8/10
俺の趣味 9/10

85
Amazon通販紹介

ユリイカ 2015年5月号 特集=ポール・トーマス・アンダーソン -『ブギーナイツ』『マグノリア』から『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』、そして『インヒアレント・ヴァイス』へ
ポール・トーマス・アンダーソン ホアキン・フェニックス ジュシュ・ブローリン 佐藤良明 柳下毅一郎
青土社 (2015-04-27)
売り上げランキング: 3,019
LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)
トマス ピンチョン
新潮社
売り上げランキング: 17,051

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA