『オブセッション 災愛』感想:一言でいうと
『オブセッション 災愛』は、「好きな人に愛されたい」という何気ない願いが、最悪の形でかなってしまう胸糞ホラー。個人的な評価は86点です。低予算作品とは思えないテンポと完成度、そしてインディ・ナヴァレッテの怪演がとにかく良かった。
一方で、猫に関する嫌な描写、体液、自傷、ゴア、突然の絶叫を含むジャンプスケアはかなり強め。苦手な人は注意してください。
※この記事は、本文の早い段階から結末を含むネタバレがあります。
製作
2025年アメリカ映画
キャスト
2026年7月19日劇場鑑賞
2026年24本目
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概要:何気ない願いが最悪の形でかなうとき、日常が壊れていく
監督がW・W・ジェイコブズの短編小説『猿の手』を下敷きにした『ザ・シンプソンズ』の「Treehouse of Horror II」から着想を得た本作。
ずっと好きだった人に愛されたい――学生時代なら、一度は抱きそうな何気ない願い。ちょっとしたおもちゃを試したら、あら大変。日常が壊れ、一気に大惨事へと発展していく。
古典的ホラーの型を現代に流用した素晴らしい作品です
出典:Variety:Curry Barker『Obsession』インタビュー
20歳を超えてもずっと好きだった人に片想い中の主人公は、ある日、鉱石類を扱う民芸店チックな雑貨屋で、願いがかなうという玩具を買って試す。すると願いは本当にかなったものの、それは願いを最悪の形でねじ曲げるガチのヤバいやつだったわけ。
大好きだった彼女は願いの力に支配され、普段とは別人のようになっていく。主人公は願った通り彼女から愛されるわけなのだが、その一方的な愛は常軌を逸した行動へとつながり始める。
短期間で汚物もあるわ、ゴアもあるわ、殺人もあるわと、一気にエスカレーションしていく悪趣味で素晴らしいホラー展開の連続!!
さすが長年、振られるのが怖くて告白できなかった優柔不断男である主人公。決断もまともにできず、狂いつつも時折自我を取り戻す彼女から怖くて目を背けたり、悪魔的な愛を受け入れられず否定したりと、事態を最悪にするにふさわしい性格で、最悪で最高です。
最後の最後の展開を含め、主人公のクズというか自己愛っぷりも最高に最悪。彼のせいで死ななくていい人もいたでしょう。この胸糞感も含めて、至高のホラー映画だなぁと実感。こりゃ大ヒットしてもおかしくないですわ。
補足:『猿の手』とは?
『猿の手(The Monkey’s Paw)』は、イギリスの作家W・W・ジェイコブズが1902年に発表した短編怪奇小説である。
物語に登場するのは、持ち主の願いを3つかなえるという、ミイラ化した猿の手だ。しかし、それは人間の運命に干渉することの愚かさを思い知らせるため、インドの聖者によって呪いをかけられたものだった。
猿の手を手に入れたホワイト氏は、住宅ローンを返済するために200ポンドを願う。翌日、息子のハーバートが勤務先の機械事故で死亡し、会社から補償金として支払われたのは、願ったとおりの200ポンドだった。
その後、妻に懇願されたホワイト氏は、2つ目の願いとして息子を生き返らせる。すると深夜、玄関の扉をたたく音が響き始める。しかし、事故からすでに10日が経過し、息子の遺体が服装でしか判別できないほど損壊していたことを知る父親は、扉の外にいるものを家へ入れることを恐れる。妻が扉を開ける直前、父親が最後の願いを口にするとノックは止まり、扉の外には誰もいなかった。3つ目の願いの内容は明示されないが、息子を再び死者へ戻したことが示唆されている。
『猿の手』で重要なのは、願いが拒絶されるのではなく、確かにかなっている点だ。ただし、それは願った本人が望まなかった方法や、到底受け入れられない代償を伴って実現する。そこから、何気ない願いが最悪の形で成就し、取り返しのつかない悲劇を招く物語の構造は、しばしば「猿の手」になぞらえて語られるようになった。
出典
・W・W・ジェイコブズ『The Monkey’s Paw』原文(Project Gutenberg)
感想:完成度が高く上質で胸糞で良かったです
高い興行成績に目がいく作品ですが、鑑賞してみてとても良かったです。
全体的に映画のまとまりとテンポがとても良かったです。そこは初の劇場公開作とは思えないほど、ホラー映画のやり口は全部わかっているという骨格が整ってる感じがすごく、商業映画初挑戦の監督作品とは思えない、驚くほどのまとまりでした。
低予算映画らしい無名俳優の抜擢。そして登場人物も、2人の密室劇を中心に、そこへ介入する2人と、わずかなシーンのモブキャラに絞られている点も良い。密室劇中心で映像が暗いながらも照明効果の質は高く、決して見づらいわけでもない。状況がしっかり明確化されていて、優れた映像作品になっていたのには驚きました。
また前述の何気ない願いが最悪の形でかなうとき、日常が壊れていく物語の身近さとそこからどんどん最悪になっていく胸糞感が素晴らしく、山荘に行ったら殺人鬼に遭遇してしまうような、理不尽な恐ろしさでした。何気なさが妙に市井の人々の身近さに繋がり、そこからの最悪さのアプローチが最高ですね。
ゲロ、体液、グロなど映画の過激な魅力もしっかり盛り込んでいて、面白かったです。
ただ冒頭に猫が突然死んでる展開でさらにそこを嫌な感じに掘り下げるので、猫好きにはきつい部分もあると感じました。
そこも含めて嫌な感じが素晴らしく、わずか108分でいい感じにまとまってる。
思い返してもサラが最高に可哀想なので、その不条理さもたまらないなぁって思いました。
怪演がたまらん!インディ・ナヴァレッテがすごかった
今作のヒットと同じくらい話題だと思うのが、主演女優のインディ・ナヴァレッテさん。まだ25歳。2021年から『スーパーマン&ロイス』に3シーズン、レギュラー出演し、最終シーズンにもゲスト出演していたわけで売れる可能性は当初からあったものの今作で確実に飛躍しましたね。
もちろんキャラや演技プランなど監督と一緒に作ったと思いますが、体を張った部分もあると思うしすごいです。
楽器屋で働いていたニッキーですが、作家になりたいとか。そんな彼女に小学校ぐらいから恋している主人公のベア。彼女の気丈さに支えられ、また知的でユーモアのあるところが好きだったベアですが運悪く呪いをかけてしまったことで、ニッキーとは思えない行動の数々に困惑し、呪われたニッキーは願いによって本来の人格を押し込められていて、その姿を見ているしかないという最悪の状況。
突如人格が変わってしまったキャラクターを怪演するインディさん。突如発狂したり、ゲロ吐いたりお漏らししたりと無茶苦茶。
サイコな振る舞いも多数あり、謎の寝室ダンスなど不気味な笑いをくれたりすごいんだけど、綺麗な顔面を自傷したりとみてて怖い展開も多いし、
窓ガラスを突き破り、サラの頭をレンガに何度も打ちつけて殺すシーンの狂気など、すごかったです。
終始壊れていく様が悲しく、そして胸糞悪いわけですが、コテコテの作り物の映画という感じも共存していて、映画で見せ物だってわかるバランス感覚が非常に優れていたなぁと思いました。
絶対におっぱいを見せない!エロ要素を出さないところにも逆に感動した
イアンと裏でセックスしてる関係なのを想像すると生々しくて胸糞で、この閉鎖的な街での閉鎖的でドロドロした人間関係がまた一級の低予算ホラー映画だなぁと思った。
注意:ジャンプスケアが多い
ニッキーの突然の絶叫だけにとどまらず、びっくりさせるような大きな音をいっぱい流す、古風とも言えるやり口の映画。
嫌なびっくり感があるので、それが苦手な人は注意ですね
またサラとの密会の変なカメラワークにはニッキー登場の予兆があって逆に笑えたりもします。
製作費75万ドルの低予算ホラーが異例の大ヒット!
『オブセッション』ってなんだ?
本作は低予算のインディペンデント映画としては異例の大ヒットを記録した作品。
製作費は最大でも75万ドル。それに対して、2026年8月2日時点の世界興行収入は約4億6,097万ドルに達している。単純に比較すると、製作費の約600倍に相当する数字だ。もちろん興行収入がそのまま利益になるわけではないが、それを差し引いても、とんでもない成功であることは間違いない。
さらに珍しいのは、公開後に勢いを落とすどころか、口コミによって成績を伸ばしていったことだ。アメリカでの初週末興行収入は1,720万ドルだったが、第2週末には2,400万ドル、第3週末には2,740万ドルを記録。クリスマスシーズン以外の大規模公開作品としては、第2週末、第3週末と連続して前週の興収を上回り、『E.T.』以来の記録となった。
観客の中心となったのは18~34歳の若年層で、全体の75%を占めたという。Z世代を中心とした口コミが広がり、その後、『ダウントン・アビー』を抜いてフォーカス・フィーチャーズ史上最大のヒット作となった。さらに、製作費100万ドル未満の映画としても、インフレーション調整を行わない世界興収で歴代最高記録を更新している。
有名シリーズの続編でも、大物監督による超大作でもない。YouTube出身の監督が75万ドルで作ったオリジナルのホラー映画が、巨大フランチャイズ作品を押しのけて4億ドルを突破した。『オブセッション』のヒットは、単なる低予算映画の成功というより、2026年の映画興行を象徴する事件といっていいだろう。
本作はTea Shop Productions、Under the Shell、Capstone Picturesが75万ドルで自主製作したインディペンデント映画。トロント国際映画祭でフォーカス・フィーチャーズが配給権を獲得した後、ジェイソン・ブラムが製作総指揮として加わり、宣伝を後押しした作品です。
つまり、日本ではブラムハウスの名前が前面に出ていますが、企画段階から同社が製作した映画ではありません。それでも、完成後の作品に惚れ込み、製作総指揮と宣伝で後押しした嗅覚はさすが。YouTube出身のカリー・バーカー監督にとって、長編2作目にして初の劇場公開作です。
まとめ:上質なホラーはコメディから始まる?
今作の監督は一応コメディ出身の人ですが、やはり上質なホラーは滑稽な物語から始まるのかなぁって思うのであった。
冴えない男の願いが地獄への入り口になる。その状況も、一つの見方によっては笑えてしまうところだし。
好きだったプライド高そうな女性が、自分にぞっこんになったら「なんか違う」となる。そんな人間の不愉快さを見る目線も、やはり笑えるか笑えないかというシニカルな判断から来てるなぁって思う。可哀想なサラの展開にも、やりすぎた滑稽さを感じるし、ネジの外れた笑いはやはり狂気と感じるね。
部屋の扉にテープを貼りまくる展開の、恐怖と笑いのバランス。猫の死体を使ったパンのジョークの笑えなさ。
イアンの裏話にある不愉快な皮肉。そのイアンがベアをそっこー見捨てて大金を手に入れるものの、その顛末がまた笑える。
そして発端は、ベアの無責任な願い。その願いによって本来の人格を押し込められ、狂いまくるニッキー。彼女をしっかり愛してれば、また違ったのか???
そんなベアは最後まで優柔不断。さすがにずっとウジウジしてただけあって、詰めの甘さから呪具をニッキーに使われ、鎮痛薬を吐き出すこともできずに死んでしまう。そんな展開などなど、上質なホラーにはコメディの要素が必要だと改めて実感しました。
『ゲット・アウト』の監督ジョーダン・ピールも元々はコメディアンですもんね。
hisSCORE
・脚本のユニークさ、濃さ、テーマ性 8.6/10
・映像のアプローチ 8.8/10
・映画の美術面 8.5/10
・キャラクターの魅力 9/10
・音楽 8/10
・上映時間と個人的趣味 8.4/10
86点
とっても良かったです。
私はホラーがすっごく好きってわけじゃないですが、面白い映画でした。

ネタバレ あらすじ
おまけ:TIFF上映版ではサラの殺害描写がさらに長かった
2025年のトロント国際映画祭で上映されたバージョンでは、ニッキーがサラの頭をレンガに打ちつける回数が、一般劇場公開版より6~7回多かったという。
そのままではアメリカでNC-17指定を受ける可能性があったため、R指定で公開するために削られたとのこと。それでも十分エグかったのに、あれ以上長かったのかよと思うと恐ろしいですわ。
出典:The Guardian:カリー・バーカー監督インタビュー
The Direct:削除された殺害描写について
最後に:ご訪問ありがとうございます
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