監督
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
(『バベル』)
まるで1カットの映画のように、巧妙に編集され、また全てを手持ちカメラでワンシーンワンカットで収めた強烈な作品。
撮影と作風も凄いが、映画の内容も凄い。
現実世界で、1992年にバットマンを演じたマイケル・キートンが、映画内で、バードマンというスーパーヒーローを1992年に演じている。
そのコミック映画スターのマイケル・キートンというかリーガンが、ハリウッド映画とは真逆のNYのブロードウェイで演劇をして、もう一度俳優として再起をかける物語。
なのだが。
ワンシーン、ワンカットという都合上、映画は、そのリーガントムソンの一世一代の演劇舞台を描く、5日間程の限定的な期間の物語だ。
ワンシーン、ワンカット映画。それはドミノ倒しのようだった。
本作は、とても特殊な作品だ。
手持ちカメラで、ワンシーン、ワンカットにして、さらにそのカットを編集技術により、切れ目を全くわからないようにして、映画がワンカットで構成されたかのように仕上がっている。
その止まることのない、カメラの動きや、矢継ぎ早に起きる出来事の数々などは、映画よりもドミノ倒しを見てるような心境になる。
それは、とても不自然なことで、やかましいとも思える。
また映画は、そのノンストップさを彩るようにフリージャズが流れる。
ジャズ好きにはたまらないないだろう。
次々に起こる仕掛けの数。それが機能しなければ、労力が全て水の泡。
ミスが致命的な作品でも俳優たちは物怖じもせず、ちょっと灰汁の濃い演技を披露してくれる。
そのノンストップの中に、ちゃんと元コミック映画スターで、それを自ら辞めたことで、落ち目になり、俳優になった起因である、脚本を元にハイカラな芸術の中心地であるニューヨークで舞台をして、人生の再起をかける男の物語が含まれており。
それを取り巻く、ちょっとヒステリックなニューヨークっぽい役者たちの暴走だったりと、さらには、現在のアメコミ、ブロックバスター映画への皮肉とも言える、映像描写などなど、脚本もしっかりとある。
かなり野心的な作品だが、主張はちゃんとあるのだ。
だが、その脚本を映像で見せる方法が他の映画に比べては、かなり限定的になってしまっている。
さらには、映画を止めること、つまりドミノが倒れないこと、異常事態ということで、矢継ぎ早に俳優陣がアクションを起こす。
それが演劇やらに対する皮肉だったりと、結構、間のつなぎがお喋りになっている。
映画として、映像で見せることよりも、台詞でつなぐことが多くなりがちで、あまり面白いわけではなかった。
さらには、制約の中に描ける時間の狭さもあり、どうしてもシアターの近辺で映画が成り立たないといけない。
その見せ方は確かにすごかったし、映画としては根本的にブラックコメディなのもすごい。
だが物足りないのだった。
また手持ちカメラでシアター内を縦横無尽に描くわけだが、これの意図がいまいちよくわからない。
手持ちカメラというPOVに近い立ち位置の効能はその映画の世界に入ったかのような体感をあたえてくれるが、この映画の内容にそれが効果的か?と問われれば、勿論NOだと思う。
意味がないすごいことをしているように思えて、むしろ楽しめなかった。
またキャスト共にメタ過ぎる。
バットマンを昔演じた落ち目の俳優にまんまそのままの役をやらせても、それが演技なのか本音なのかいまいちわからない。
ナオミ・ワッツがマルホランド・ドライブ再びだった。
ロバート・ダウニーJr.やらジョージ・クルーニーやら、オプラなどなどをディスるのもメタすぎる。
こっちは楽しんでアメコミ映画を見てるんだから、そんな皮肉めかれても困るし、アメコミ映画にも
素晴らしい作品が近年生まれていることも忘れないでほしい。
そもそも現代では、マーベルのアメコミ映画やダークナイトでは、元々俳優としてのキャリアがあって演技派がキャストになる場合がある。いわば中堅がスターに登るようなもの。
ポット出がアメコミの主演を張るのはかなり過去の話だ。
エマ・ストーンはこれまでの快活少女や優等生から一変した薬物依存の少女役。
エドワード・ノートンとのちょっと過激なキスシーンもあり、いままでの印象とは違う。
少しほっそりとして、メイクもこれまでとは違うお嬢様ではなく不良不健康とさせた感じで、刺激的。
本作のキャストの中で一番印象的かな?ラストシーンの微笑み含めて。
ラストシーンの解釈は気になるところ。そもそもあの唯一カットされたところは死後の天国への直前だったのか?それとも本当に鼻を撃ったのか。映画内では確実に頭部にヒットしていたと思うが、銃の衝撃でずれていた場合もあるのだろう。
僕が思うに、本作はウッディ・アレンの脚本したかのうような内容。そこに一世一代の舞台を通して、徐々に現実と妄想が混じり合って、さらには過去の栄光が自身を蝕む、そういった虚構と現実と狂気の描きかた振り切っておらず、また脚本がウッディ・アレンのようにウィットに富んだキャストの台詞回しに、現実世界とリンクしてアメコミ映画を皮肉るメタ構造、さらにはわずか4.5日の限定的な期間と凝っており。
さらに、ワンシーンワンカット。
そしてフリージャズなどなど、凝りに凝って面白いというか、よくわかんない映画になっている。
その全てがリンクしてロンしてたかというと、やくなしだっと思う。
映像の意図、脚本、音楽、全てがちぐはぐに思えたのは、もしかしたら僕だけかもしれない。
あと長回しって、体感時間が長く感じるんだよね。
そういえば日本映画の『フォルマ』もワンシーンワンカット長回し映画だったな。
あっちは定点だから見てられたけど、こっちは手持ちだからな。
映画評論家の町山さんは本作を見て、感動したと言っていた。
夢を持って、若いころは、おれはなんでもできるって思ってたけど、歳をとってできないことを知って、もう一度羽ばたこうとするというのが泣けると。
自分にはその感情がないなと思った。
そもそも本作の主人公の真剣に求めるとこは、どこだったのか?
スターとしての名声を再び取り戻したかったのか?
娘に認められたかったのか?
それともバードマンと自分のアイデンティティーが重なってしまい、アイデンティティーを取り戻すべく、日々もがいていた男の物語で、結局バードマンこそが自分でしかないとなって自殺してしまう男の物語なのか。
映画の描きかたの手法が、ワンシーンワンカットとワンショットのみの映画のようにしたて、期間を限定的にしたこと、さらには、シーンを強引につなげるべく、(ドミノ倒しを続けるべく)他のキャストの皮肉とウィットに富んだ台詞やあるあるネタを織り込んだせいで、主人公の描きがわかりづらくなってしまったと思う。
そこが僕から見た本作の一番残念なとこだった。
でもアカデミー賞とゴールデングローブ賞で脚本賞とっているんだよね。
うーむ。
撮影賞は納得。監督賞は本作を作ったことで納得。見えないとこで相当な労力がスタッフにある作品だよ。
得点
物語の面白さと上映時間 7/10
映画の奥深さと世界観とオリジナリティ 8/10
キャラクターの魅力 7/10
監督の映像演出と印象的なシーン、映像を使った話の描き方 8.5/10
音楽 9/10
俺の趣味 6/10
73点
パンフ買えばよかった。
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